Automata restoration – 機械とメンテナンスという行為の関係性を石の時間軸から考える

概要

機械とメンテナンスという行為の関係性に着目し、科学技術の持つ再現可能性に対して、石の持つ時間性・空間性を用いることで、人間の制御しきれない状況への介入を試みる一連の作品である。 機械製品のように石を回すプロセスは、自然との対話なのか、労使関係か、それとも飽くなき介入(メンテナンス)なのか。AI 生成時代に来るべきエコロジーは有り得るのか、自然・技術・人間の関係性の行方を模索する。これまでに2023年度に3度の展示をおこなう。

制作助成:BnA Alter Museum / 京都芸術大学
協力:FabCafe Kyoto

実施報告

このプロジェクトは、機械とメンテナンスの関係性に着目し、石を使って人間の制御が及ばない状況への介入を目指す作品群についての一連の制作である。自然、技術、人間の関係性を探求し、AIの時代におけるエコロジーの可能性の考察を行った。2023年度には3回の展示を行った。

プロジェクトの初期のアイデアは、機械のメンテナンスに重点を置いたものであった。思考のきっかけとして、映画「Modern Times」の鑑賞から始まり、その中に描かれた産業革命以降に機械が導入されたことで変化した社会を振り返った。その後生まれたアイデアは、機械と人間の対話を追求するため、家庭用自動掃除機、ルンバを素材に、機械の振る舞いと誤動作のみで構成される作品を模索したが、機械のエラーに対する人間の眼差しと、誤謬的な解釈は、既に自立型の機械が持つ特性として組み込まれているように思えたため、このアプローチは魅力に欠けていた。そこで、メンテナンスの解釈を広げるために素材を自然物である石に変更した。

この変更により、機械という人工物と自然物としての石との対比が生まれた。機械は人間の手によって作られ、プログラムやエンジニアリングによって機能するように設計される。一方、石は自然の力によって形作られ、時間をかけて変化する。この対比によって、人間が作り出した機械と自然が生み出した石という異なる起源や性質を持つものが対立するように見えた。この対比は、技術と自然の対立や調和といったテーマを引き出し、人間が技術と自然をどのように調和させるかについて考える機会にもなった。

さらに、この対比によって新たな視点からメンテナンスの概念を考えることが可能になった。機械のメンテナンスは一般的に技術的な修復や保守作業を指すが、石という自然物のメンテナンスは時間と自然の力によって形成される過程を含む。この視点から、人間が作り出した機械を維持する方法と自然が生み出したものを保護する方法との間に類似点や相違点が見えてきた。また、機械のメンテナンスにおいても、自然の摂理やサイクルを考慮することで、持続可能性や環境への配慮が重要であることに気付かせてくれた。機械と自然の対比から生まれる新たな視点は、メンテナンスの概念を拡張し、技術と自然の関係を深く理解するための重要な洞察となった。

川に行き、石を選び、洗い、削り、石を歯車に見立て回転運動を伝播する作品を制作した。石それぞれの持つ固有の形、またそこから生まれる偶発的な振る舞いを生かして新しい状態を生み出すことを目指したが、完成した作品は石に機械的な再現可能性を求めていたことに気付いた。最終的には制御され、エラーの起こらない空間に戻ってしまったが、これは自然と技術に取り組む人間の行動パターンであると考察する。

以下は、制作調査のひとつとしてあるロジェ・カイヨワの文である。

石は明らかに達成された何かを提示しているのである。にもかかわらず、そこには創意も才能も術策も関与していない。そこにはそれを人間的な意味での作品とするような、まして芸術作品とするようなものは存在しない。作品はそのあとにやってくる。芸術もしかり。それは遠くにある根のような、潜在する模範のような、漠としたものだが抗うことのできない示唆をたずさえて訪れる。これは一般的な美が存在しなければならないということを、あらゆる種類のフィルターとあいまい障寄物を通り抜けてわれわれに想起させる、慎み深く曖昧な忠告である。


ロジェ・カイヨワ「石が書く」(2022)p6-7

上記のように、石に手を加えることによる生成は、我々により石を通じた労働・制作の相関について考えを深める機会となり、さらなる研究制作を行った。

川の力を使って石を回転させる2種類の機構を制作し、それぞれで回転速度のデータを取得した。タイプAは、川の力で回転させた大きな石をキャンプ場で人間が手作業で計測する。一見、くつろいでいるように見える川沿いでのカウント作業はベルトコンベアのような作業感覚であった。タイプBでは、ターンテーブルに石を乗せて川の力で回転させ、その上を別の石が転がり続ける。その速度は自動的に取得されるようになっている。タイプAのデータは石の回転に、タイプBのデータは隣に設置されたルームランナーの速度に転用されている。

石は機械とは異なり、時間の流れや変化が緩やかで、人間のリズムに比べて非常に堅牢な時間の中にある。石を使った制作は人間に長大さを感じさせるが、石にとっては刹那の出来事である。プロジェクトの締めくくりに、石を川に戻し、存在を追跡するためにAirTagを埋め込んだ。割れた石を接合して川に戻し、その存在はスマートフォンで時折確認される。石は人工的に回される役目を終え、川の中でその役割を果たし続けている。メンテナンスは存在の有無から始まり、存在があるかどうかが問われる。

このプロジェクトでは、メンテナンスの意味を再考する必要性が浮かび上がる。メンテナンスは一般的に機械や建物の保守として考えられるが、この作品はその概念を自然の視点から広げている。石の持つ長い時間の流れと人間の関わりを通して、機械やテクノロジーに依存しがちな現代の生き方を見直し、自然との関係性を再構築することが求められているように感じる。

この作品は、自然と技術、メンテナンスの概念に対する新しい視点を提供している。制御可能な機械から制御の及ばない自然に目を向けることで、人間の役割と責任を再考する重要な機会を提供している。現代社会におけるテクノロジーと自然の関係性に対する深い洞察を示しており、持続可能な未来を考える上で重要な視点となるだろう。

藤田クレア
美術研究科グローバルアートプラクティス専攻テクニカルインストラクター、アーティスト。動力的な装置と有機物 を組み合わせた作品を制作。主に社会構造や関係性の問題をテーマに探求している。

チームえんそく:石川琢也、白石晃一、藤田クレア