Film Making in Metaverse

概要

メタバース空間上でどのような映像制作が可能になるかという問いが、本プロジェクトでは主眼に置かれている。プロジェクトの成果物は2つの映像作品から成る。1つめは1年前に移転した「コ本や honkbooks」の3Dデータをバーチャル空間として立ち上げ映像作品への転換を試みた『Time of Flight α』。2つめは、バーチャル空間上を過ごしているユーザーたちへのインタビュー・記念撮影を試みる『Commons in a void』である。それぞれインタビューをメタバース空間上で行うという共通点があるが、前者においては自らバーチャル空間を生成し、後者では様々なバーチャル空間上を巡ることで作品化をするという異なるアプローチを用いている。

『Time of Flight α』
企画協力:コ本や honkbooks
機材協力:東京藝術大学大学院映像研究科

『Commons in a void』
機材協力:東京藝術大学大学院映像研究科

実施報告

1.『Time of Flight α』

作品概要

VRChatを活用したインタビューを通して制作している作品試作であり、コ本や honkbooksと共同で企画している〈BIOSONDE Project〉*から派生して制作が進められている。1年前に移転した「コ本や honkbooks」の3Dデータを手掛かりに、VR内で関係者からエピソードを収集し、1本の映像への転換を現在試みる。タイトルは、光を照射し、反射光が返るまでの時間から対象物との距離を測定する3Dスキャンの方式から名付けられた。光の反射により空間がデータとして輪郭を帯びるように、場所の記憶もまた、そこにいる/いた人たちの声やイメージが記録され、編集というプロセスを経て形を帯びる。昨今、多様な形式でアーカイブが試みられる中で、データで語りえる、あるいは語り得ない、場所の記憶や情念を保存する試みの経過を報告する。

*〈BIOSONDE Project〉は、本間悠暉とコ本や honkbooksによる「観測」をテーマにしたプロジェクトであり、「場」に残存する行為や事象について、ローカル、 バーチャルリアリティ、スタジオの3つの空間から観測するメディアを横断したリサーチを試行する。

プロセス及び、スケジュール

2023年8月:コ本や旧池袋店舗のワールドをVRChat上に公開
2023年9月-10月:コ本や関係者を集めたVRChat上でのインタビュー及び撮影
2023年11月:映像編集

展示

2023年11月に、「芸術未来研究場展」(東京藝術大学大学美術館/東京)にて、形式はプレゼンテーション映像 6分10秒として展示を行った。

2. 『Commons in a void』

作品概要

本作は、バーチャルリアリティ空間上で出会った見ず知らずの他者と「記念写真」を撮影し、アーカイブを行うアートプロジェクトであり、映像作品と記念写真群の2つの構成からなる。

アバターをまとうことで、自らの姿形を変えて集うことができるバーチャルリアリティ空間がある。それらはソーシャルVR、メタバースと呼ばれ、新型コロナウィルス蔓延以降、注目を集めている。新たなアイデンティティの獲得、物理的現実に近いコミュニケーションというユートピア的側面と、版権侵害による違法なアバター、支離滅裂なコミュニケーションというディストピア的側面との両側面が語られる様は、テックジャイアントに寡占される以前のインターネット黎明期を想起させる。

そのような楽土と混沌とが揺らぐ情景を記録しようと、バーチャル空間上にカメラを構える実践は、記念写真というコモンズ(共有財)を手がかりにすることで、作家自身の意図を超え、リアルとバーチャルの境界を超えた人間性、アイデンティティ、あるいは他者とのつながりという問いへ踏み出していく。

プロセス及びスケジュール

2023年4月-12月:VRChat空間上での撮影とインタビュー
2024年12月:編集

展示

2024年1月に、「MEDIA PRACTICE 23-24」(BankART Station / 神奈川)にて展示を実施した。
2024年3月に、「ART DX EXPO #1」(東京藝術大学上野校地 / 東京)にて展示を実施した。

結論

メタバース空間上で仮想のカメラを利用して撮影される映像は、物理的現実空間で撮影された映像とも、3DCGツールでコンポージングされた映像とも言えない、新しい地平にあるのではないだろうか。過去あった場所をバーチャル空間上で復元し、その場所を擬似的に訪れる経験から言葉を引き出すようなインタビュー手法や、バーチャル空間上で今現在根付き始めている文化をフレームにおさめていくような手法を今後も追求していきたい。

本間悠暉
アーティスト。
神奈川県横浜市出身。バーチャルリアリティ空間上やインターネット上で収集した映像に、作家自身のアバターを介入・投影させる行為を通じて、世界や他者との距離感が混沌とした時代におけるリアリティの再構築や社会性の発露を主題に制作を行う。2019年東京大学経済学部経済学科を卒業後、AR/VR技術関連の事業会社を経て、東京藝術大学大学院映像研究科メディア映像専攻に所属。主な展覧会に、2023年「芸術未来研究場展」(東京藝術大学大学美術館/東京)、2023年「やまなしメディア芸術アワード2022 受賞作品展」(小さな蔵の美術館/山梨)。