拡張世界における新たなリアリティをテーマとする展覧会

概要

本企画は、大原崇嘉、古澤龍、柳川智之の3人によるアーティスト・コレクティブであるヨフの作品制作、展覧会のためのプロジェクトである。
「モノ」と「イメージ」、「リアリティ」と「アクチュアリティ」等の関係性について、同時代的な視座から再考し、実空間と仮想空間による両義的な在り方をテーマとしていると共に、このような現代的な意識の拡張によって開かれる視覚芸術の新たな可能性を提示する。
実空間と仮想空間との「接続」を試みる一方で、デジタルイメージにおいて唐突に「切り抜き/貼り付け」られた画像のように、対象と周囲の環境との視覚的な「遮断」を実空間において実現させるといった双方向的なアプローチから、現在におけるリアリティや実在性について考察している。

展覧会名:「ACT (Artists Contemporary TOKAS) Vol. 6 メニスル」
会期:2024年 2月24日(土 ) – 3月24日(日)
会場:トーキョーアーツアンドスペース本郷
主催:公益財団法人東京都歴史文化財団 東京都現代美術館 トーキョーアーツアンドスペース
協力:MAHO KUBOTA GALLERY
参加アーティスト:大庭孝文、菅 雄嗣、ヨフ(大原崇嘉、古澤 龍、柳川智之)

作品写真:古澤龍

実施報告

最近、例えばタブレットで映画を鑑賞中、画面の中の俳優の姿が、目の前に小さな人間として生々しく実在しているような感覚になってしまったり、アップショットでの顔の近さに思わず一瞬仰反りそうになるような体験をすることが多々ある。
私はこの感覚を「コンテンツがメディアに憑依する」と呼んでいるのだが、これはつまり視差や接触によって得られる実空間におけるデバイスの定位や物質性を、映像(画像)コンテンツ内のモチーフが借用するかたちで、疑似的な実在性を獲得している状態なのだと思う。
これはリュミエール兄弟の「列車の到着」での逸話のような素朴なイリュージョンの話ではなく、例えば印象派における筆致とイメージの問題や、ゲルハルト・リヒターのshineにも含まれるような、メディアとコンテンツの両義的な受容によって生じる知覚体験のひとつだと思っている。
このようなトピックは、近年におけるXR技術の発達やその浸透、またデバイスの解像度やフレームレートの性能向上など、メディアがその透明性を増し、実像と虚像との境が身体的、概念的にも曖昧になっていく状況と、その事実に相反して、デバイスのポータブル化や触覚メディアの常態化など、メディアの物質としての側面が強調されていく、まさにこのパラドキシカルな状況において、同時代的な課題としてより明瞭に浮かび上がっているように感じる。
以上のようなコンセプトで始まった本企画は、制作活動を通じて、実空間と仮想空間との「接続/遮断」という考えを制作の主眼を置くことで、そのテーマを発展させていった。
以下に「ACT (Artists Contemporary TOKAS) Vol. 6 メニスル」カタログに記載されたヨフの作品に関するテキストを引用する。

ヨフは、色彩がもたらす視覚的な効果を研究し、二次元と三次元の両義的な空間性の横断に よって視覚表現の可能性を探究する実践を重ねてきた。本展では、仮想空間と現実空間の比 重が等価になりつつある現代の同時代的なリアリティ(実在性)をテーマに、「バーチャルの現実化」と「現実のバーチャル化」というふたつのベクトルを軸にインスタレーションを展開させた。ディスプレイが斜めに向かい合う作品《Lights》は、一方に観葉植物、もう一方に揺れ動く電球が映し出され、電球に呼応して観葉植物の影が揺れている。同時にその電球の光がディスプレイ本体を照らし、その影が映像と同期して背後の壁に揺れている。イメージとしての光源が現実に干渉し、映像の中で起きている現象が、そのまま実空間に表出する奇妙な連続性を与え、リアリティの境目にひそやかな揺らぎを生み出している。赤い光で満たされた空間は、現実から切り離された異世界に迷い込んだかのような演劇性を演出する。中央にある作品《Unlit》は、舞台セットのような大きな台の上にペンキの缶が積み上げられ、それをスポットライトが照らしている。そのうちの一缶だけが白く浮き上がり、CGで合成したかのような異様な存在感を放つ。注意深く観察すると、作品全体を当てていたスポットライトは実は白い光で、白い缶以外は、赤く塗られていることに気がつく。対して、壁面のディスプレイには、モデリングされたペンキ缶や、缶のラベルをIllustratorで色調整する様子が映し出され、画面上で動く自動のカーソルが、虚構のプロダクトをリアルに再現していく(《Lit》)。本来液晶の画面は、周囲の光の影響を受けずに自発光するが、本作品では意図的に映像の色調を加工していることで、まるで赤い照明によって画面が染められたように見せているのだ。現実が仮想化され、仮想が現実化され、現実と仮想の関係性が旋回するように反転し、その循環の中に鑑賞者自身も取り込まれていく。絶えず変容する人間の知覚の基準を捉え直し、複層的な視覚的体験の構造を発展させていくヨフの取り組みは、デジタルな仮想世界とアナログな現実世界を繋ぎ合わせ多元的な時空を創出するとともに、リアリティの概念に亀裂を起こし、視覚認知の新たな地平を拓いていく。

実施スケジュール

  1. 2023.11.10 – 2023.11.26 芸術未来研究場展
  2. 2024.1.10 – 2024.2.16:アトリエにて新作制作
  3. 2024.2.24 – 2024.3.24:展覧会開始
      1 . 2024.3.2:ギャラリーツアー
      2 . 2024.3.10 – 2024.3.15:記録撮影、編集
  4. 2024.3.16 – 2024.3.17:ART DX EXPO #1
大原崇嘉
アーティスト。
1986年神奈川県生まれ。東京在住のアーティスト。武蔵野美術大学造形学部視覚伝達デザイン学 科卒業。東京藝術大学大学院映像学科メディア映像専攻修了。色彩や構成、人間の奥行き知覚の 考察をベースとした視覚表現などを行う。2021年文化庁メディア芸術祭〈アート部門審査委員会 推薦作品〉、2014年第67回カンヌ国際映画祭〈短編コンペティション部門ノミネート〉、2012年 文化庁メディア芸術祭〈エンターテインメント部門審査委員会推薦作品〉など。

ヨフ:大原崇嘉、古澤龍、柳川智之の3人によるアーティスト・コレクティブであるヨフは、色彩・空間についてのプラグマティックなリサーチや、デジタルメディアにおけるイメージの拡張性について考察することで、視覚表現の現在性を捉え直す実践を行う。2019年にTOKASの企画公募プログラム「OPEN SITE」の展示部門で発表した「2D Painting」では、テクスチャが削ぎ落された立体物とそれを照らし出す照明の作用によって、三次元空間の奥行きは消失し、二次元との認識を行き来するような体験をもたらした。また、近年では、ディスプレイを用いて、鑑賞者の視線と映像空間との相互的な関わりをテーマとしたインスタレーション作品などを発表している。